【現役医師が解説】無痛分娩・硬膜外麻酔のやり方とそのコツとは?
無痛分娩の現場で働く医師が解説!
無痛分娩の麻酔のやり方と成功のコツ!
『無痛分娩に興味があるけど、硬膜外麻酔ってどんな麻酔?』
『背中に針を刺すって聞いてなんだか怖くて…』
無痛分娩に興味はあるけど、どんな麻酔をするのか分からなくて不安に思う妊婦さんも多いのではないでしょうか。
現在、無痛分娩で主に使用されるのが硬膜外麻酔というやり方です。背中から針を刺す方法で、現在は高い安全性が確立されています。
今回は無痛分娩の現場で働く医師である私が、実際に行われている手順と妊婦さんに指導している「成功のコツ」について徹底解説します!
<目次>
1.結論
2. 無痛分娩と硬膜外麻酔の基礎知識
3. 解剖を理解する
4. 硬膜外麻酔の具体的な手順
4-2.妊婦さんの姿勢のコツ
5. 知っておきたい合併症とリスク管理
6. 医師からのメッセージ
1. 結論
硬膜外麻酔とは背骨の隙間から針を刺して、脊髄を覆う膜である硬膜のすぐ近くにカテーテルを留置し、そこに麻酔薬を投与して麻酔をかける方法です。そのため、背骨をうまく広げる姿勢を妊婦さんが取ることが成功の大きな秘訣となります。
ちなみに硬膜外麻酔は
■低濃度の局所麻酔薬を中心に使う
■麻酔薬を血管内には投与しない(赤ちゃんに届きにくい)
■神経の近くに投与するので少量で効く
という大きなメリットがあるため無痛分娩で最も選択されているのです。
2. 無痛分娩と硬膜外麻酔の基礎知識
無痛分娩とは?
無痛分娩は医学的な手法で陣痛の痛みを緩和する方法です。単なる痛みの回避ではなく、母体の疲労軽減や、高血圧合併症のリスク低減、緊急帝王切開へのスムーズな移行など、母児の安全を最適化するための医療としての側面も持っています。
硬膜外麻酔の仕組み
脊髄を包む硬膜の外側にある、わずか数ミリの隙間(硬膜外腔)に細いチューブ(カテーテル)を入れ、そこから持続的に麻酔薬を注入します。麻酔薬の濃度と量を調節し、痛みを伝える「感覚神経」を選択的にブロックし、足を動かす「運動神経」への影響を最小限に抑えます。これにより痛みは取りながらいきむ力を残せる、いわゆる「歩ける無痛分娩(Walking Epidural)」が可能となります。
3. 解剖を理解する
針を刺すときは目視できない「ブラインド」の状態で進めるため、穿刺者は背中の構造を正しくイメージすることが不可欠です。
針が通過する組織の順序
皮膚・皮下組織
棘上(きょくじょう)靭帯
棘間(きょくかん)靭帯: ここで針がしっかり保持されます。
黄色(おうしょく)靭帯: 非常に弾力があり、ここを突破した直後が目的地です。
硬膜外腔: ターゲットとなる潜在的な陰圧空間。
4. 硬膜外麻酔の具体的な手順
実際の無痛分娩の現場では、以下のステップで進めていきます。
動画で視聴したい方はインスタでリール動画を投稿しているのでこちらの動画をご覧ください!
① 準備(モニター・点滴)
安全管理の第一歩です。CTGモニター、血圧計、パルスオキシメーターを装着。また点滴で水分を補給(プレローディング)して、麻酔後の低血圧を予防します。
4-2.妊婦さんの姿勢のコツ
②ポジショニング(体位)を取る
「無痛分娩の手技の成功の9割は体位で決まる」
私が初めて無痛分娩の麻酔をした時に上級医から言われた一言です。場数を踏んだ上で改めて考えてみてもその通りだと思います。
以下に妊婦さんが意識すべきポイントを挙げますね。
<横向きの姿勢>
・なるべくベッドの端っこスレスレまで移動する(医師が支えるので落ちることはないです)
・両方の肩が地面と垂直となるようにする(少し後に倒れるイメージ)
<背中を丸める>
・膝を体育座りのようになるべく抱え込む(右膝→左膝の順にやると良い)
・顎を胸につけるくらい引く(お臍を覗き込む感じ、エビをイメージ)
<姿勢の維持>
・とにかく上の姿勢をキープ!(我慢できない時は必ず伝えてから動く)
・陣痛が終わった直後に刺してもらうと良い(処置の途中で陣痛が来ないように)
こうすることで、背骨が捻れることなく真っ直ぐ広がってくれるので、術者はただ針を直線的に刺すだけで良くなるのです。
③ 消毒と局所麻酔
感染を防ぐため広範囲を消毒した上で、まずは細い針で皮膚とその直下の組織に局所麻酔をします。
局所麻酔をする時はチクッとしますが、これ以降は硬膜外針を入れてもほとんど痛みを感じなくなります。
痛みがある時は医者に伝えて局所麻酔を追加してもらいましょう。
④ 穿刺と抵抗消失法(LOR法)
専用の硬膜外針(Tuohy針)を進めます。背骨の隙間に上手く入っていると棘間靭帯に上手く針が入っていきます。
靭帯の抵抗を感じたら針の後ろ側にシリンジを装着します。このシリンジを押した時の抵抗で針の先端部位を確認するのです。
靭帯は密で硬い組織であるためシリンジを押しても抵抗が強いのですが、靭帯を抜けて硬膜外腔に入ると陰圧の空間なのでシリンジを押した時の抵抗がありません。
この変化をLoss of resistance(抵抗消失) と言って、硬膜外腔に針が到達した証拠となります。
Loss of Resistance (LOR): 靭帯を抜けて硬膜外腔に入った瞬間、それまで押し返していたシリンジの抵抗が「フッ」と消えること。この指先に伝わる繊細な変化を逃さないのがプロの技です。
⑤ カテーテル留置とテストドーズ
針が硬膜外腔に到達したのを確認したら、麻酔薬を持続的に注入するためのカテーテル(細いチューブ)を針から通し、+3〜5cmほどの長さで留置します。
この際にカテーテルがちゃんと硬膜外腔にあるのかを少量の麻酔薬を入れて確認します(テストドーズ)。
テストドーズ: 少量の薬を入れて患者さんの反応を見る。血管内やくも膜下(より深い場所)に誤注入されていると『足の痺れや耳鳴り、苦味、めまい』等の症状を患者さんが訴えることがある。
⑥ 固定と効果確認
安全を確認した上で針を抜き、カテーテルを背中にテープでしっかり固定します。テープで固定した後は、麻酔が両側に効くように仰向けの姿勢に戻っていただき、麻酔薬を注入していきます。10〜20分経ったら麻酔の範囲をアルコール綿などで確認し、痛みが取れているかを評価します(コールドテスト)。
5. 知っておきたい合併症とリスク管理
硬膜外麻酔が医療行為である以上リスクはゼロではありませんが、適切な管理で安全性を高められます。
以下に主な合併症をまとめます。より詳しい合併症に関してはこちらをご覧ください。
| 合併症の種類 | 頻度 | 主な症状 | 対処法 |
|---|---|---|---|
| 低血圧 | 多い | めまい、吐き気 | 自然に改善することが多い。輸液、昇圧薬の投与 |
| 頭痛 | 約1% | 起立時の頭痛 | 安静、薬の処方、神経ブロック、ブラッドパッチ |
| 片効き | 時々 | 片側だけ痛みが残る | 体位変換、カテーテルの位置調整、刺し直し |
| 全脊椎麻酔 | 極めて稀 | 呼吸停止、意識消失 | 気道確保、酸素投与、人工呼吸管理 |
6. 医師からのメッセージ
無痛分娩は、単なる麻酔薬による痛みの除去ではありません。お産を喜びと感動の瞬間に変えるための高度な医療技術なのです。
そのため合併症の可能性をできるだけ減らし、より安全により正確に麻酔を行えるようにスタッフは日々努力しております。
徹底したモニタリング、詳細な解剖学、指先の細かい感覚など非常に多くの知識と技術が必要です。
またその一方で、妊婦さんの姿勢を工夫することでも成功率を大きく上げることができます。
多くの場合はスタッフから姿勢のコツを言われると思いますが、もしも何も言われなかったら上記のコツを意識すると良いでしょう。
ではでは!
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