医師の体験談Vol.2】無痛分娩なのに激痛!原因は赤ちゃんの…?

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初産

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医師の体験談Vol.2

無痛分娩なのに激痛!?

原因は赤ちゃんの〇〇にあった!

 

こんにちは、無痛分娩の現場で働く医師が運営する無痛分娩チャンネルへようこそ!

私は現在、無痛分娩を年間数百件扱う病院で勤務しており、自分が担当する妊婦さんだけでも年間200人ほどになります。

そんなわけで毎日たくさんの無痛分娩を管理していると、まれに『無痛分娩の管理に難渋する』妊婦さんも出てきます。

 

前回のVol.1では赤ちゃんの大きさが原因のケースをご紹介しましたが、今回も「赤ちゃんの〇〇」が原因で、無痛分娩のコントロールが極めて難しくなった30代の妊婦さんのエピソードをお話しします。

順調に見えたスタートから、なぜ激痛になったのか。医者側の視点で振り返ります。


1. )朝4時 無痛分娩開始!

 

その日の無痛分娩では30代前半の初産婦さんを担当しました。

身長は160cmほど、体格は標準。妊娠38週ほどで、推定体重は2800gほど。

産婦人科、麻酔科の事前健診でも「特にリスクなし」と診断されてます。

本人も医療従事者で、無痛分娩への理解は良好な方でした。

 

前日の夜22時に陣痛が始まったとして病院を受診し、陣痛発来としてそのまま入院。

その後はしばらく陣痛の痛みを我慢できていましたが、朝4時に我慢できないということで、無痛分娩の依頼がありました。

その時点で子宮口は3cmまで開いており、そのまま無痛分娩を開始。

硬膜外麻酔の時の姿勢も上手で、処置も非常にスムーズに終わり、薬を入れるとすぐに陣痛の波は穏やかになりました。

 

 

妊婦さん:「全然違います!子宮が押されてるのは分かるけど全然痛くないです。さっきまでの痛みが嘘みたいです!」

麻酔科医(私):「良かったです。また定期的に様子を伺いに参りますね。」

 

そのまま午前中はご家族とスマホで連絡を取り合ったり、うたた寝をされるなど、まさに「無痛分娩らしい」穏やかな時間が流れていました。

 


2. )午後1時 突如襲いかかる、骨盤付近の鋭い痛み

 

異変が起きたのは、子宮口が6、7cmを超えたあたり。

それまでボタン(自己調節鎮痛)でコントロールできていた痛みが、急に取れなくなりました。

 

助産師さん:「麻酔を追加しても、右の骨盤が突き上げられるように痛いとおっしゃっています。」

とCallがあり、急いで病室へ。

 

そこには、脂汗を浮かべて苦悶の表情を浮かべる妊婦さんの姿がありました。

 

妊婦さん:「先生、痛いです……。右の腰からお尻にかけて、ハンマーで叩かれてるみたいに……」

:「(診察しながら)麻酔の範囲はしっかり効いています。強めの麻酔薬を使いますね」

 

麻酔の範囲は正常でしっかり効いているのに痛い、いわゆる「突出痛」と呼ばれるものです。

原因を調べつつ、強めの麻酔薬を投与して様子を見てみます。

 

妊婦さん:「先生、全然変わらず痛いです……なんとかしてほしいです」

 

2回ほど強めの麻酔薬を投与しましたが、一向に改善しません。

正常なお産で通常通りの陣痛であれば、強い麻酔薬を使えば基本的に痛みが消えるはず。

しかし彼女を襲っていたのは、通常の陣痛とは異なる「ある異常」による痛みでした。

 


3. )午後2時 原因判明:赤ちゃんの「回旋異常」

 

強めの麻酔薬を使ったのになかなか痛みが改善しません。

産婦人科の先生と情報を共有して、内診と超音波検査を行ってもらった結果、原因が判明しました。

 

産婦人科医:「先生、やっぱり回旋異常(かいせんいじょう)ありました。」

 

 

✳︎ 回旋異常とは

意外と知られていないのですが、赤ちゃんは通常体を少しずつ回転させながら狭い骨盤を通り抜けます。

これは骨盤の入り口と出口で通りやすい向きが90度ずれているためで、赤ちゃんはそのズレに合わせて頭をねじりながら生まれます。

回旋は全部で4回あります、それぞれ第1〜第4回旋と言います。

 

 

しかし回旋異常が起きると、赤ちゃんがお母さんのお腹側を向いてしまったり(逆向き)、回転が途中で止まってしまったりします。

すると、赤ちゃんの頭の最も硬い部分が、お母さんの仙骨(腰の骨)や神経を直接強く圧迫し続けるため、通常の無痛分娩の麻酔では太刀打ちできないほどの激痛が生じます

さらに痛みが強いだけでなく、お産の進行自体が止まることもあり、分娩遷延・停止による緊急帝王切開になることも少なくありません。

 

今回の妊婦さんはいわゆる後方後頭位と呼ばれる回旋異常で、本来お母さんのお尻側を向いて赤ちゃんは生まれてくるのに、その逆のお腹側を向いて生まれてきそうなのです。

後方後頭位、普通は赤ちゃんはお母さんの背中側を向いて生まれる

 

そのまま無事に生まれることもありますが、通常とは違う向きで生まれようとするので骨盤の形と赤ちゃんの頭がフィットせずに強い痛みを生じたり、分娩時間が延長するリスクが高いです。

お母さんの姿勢を変えたり、産婦人科医が徒手的に赤ちゃんの向きを変えようとしますが、それでも変わらなかった場合は諦めて緊急帝王切開になるパターンが多いです。

 

 

原因が分かったものの、麻酔科医としてはより強い痛み止めを使う以外対応は無く、いわゆる「レスキュー薬」として、より強力な鎮痛薬であるフェンタニルなどをカテーテルから投与しました。

これにより、絶叫するような痛みからは解放され、なんとか「耐えられる範囲」まで落ち着かせることができましたが、状況は依然として厳しいものでした。

 

 

★コラム・お産の豆知識

生まれるために赤ちゃんの頭が4回も回旋するなんて、複雑すぎる…と思いませんか?

実はこれは人類が二足歩行を始めたことによる宿命とも言えます、二足歩行の結果、骨盤はより頑丈な横に広いバケツ 型になった一方で、赤ちゃんの頭は知能の増大に伴い大きくなっています。

つまり出口が狭くなった上に、生まれ出る物も大きくなっているのです。

それを乗り越えるためにここまでお産が複雑になったのですね、進化の神秘の一つと言えるでしょう。


4. )午後4時 決断、帝王切開へ

 

回旋異常の影響もあってか、お産はピタリと止まってしまいました。

子宮口は9cmと全開大に近いものの、赤ちゃんの頭が骨盤に引っかかり、それ以上降りてくる気配がありません。

 

産婦人科医:「回旋が直りませんね。分娩停止の診断になります。お母さんの疲労もピークですし、赤ちゃんの心拍も少し苦しそうです。帝王切開に切り替えましょう。

 

彼女とご家族に説明し、緊急帝王切開へと舵を切りました。

幸いなことに胎児心拍数は低下しておらず、赤ちゃんの状態は悪くはありませんでしたし、無痛分娩のカテーテルがすでに入っていたため、手術用の麻酔への切り替えはわずか数分で完了しました。

無痛分娩のカテーテルからそのまま手術用の麻酔を行えます

 

そのまま痛みを感じることなく、手術が始まりました。

手術が始まって間もなく、元気な産声が響きました、赤ちゃんの誕生です。

 


振り返り:なぜ痛みはゼロにならなかったのか

 

取り出された赤ちゃんは、少しだけ頭の形が骨盤の形に沿って長くなっていました。狭いところで一生懸命頑張っていた証拠です。

さて、今回のケースはなぜ痛みがなかなか取れなかったのか。

結論:赤ちゃんの向き、つまり回旋異常が原因です。

項目内容
主な原因回旋異常(赤ちゃんの向きの不具合)
痛みの性質骨盤や神経への直接的な強い圧迫
最終的な判断分娩停止による緊急帝王切開

 

医師の解説

今回のケースでは、麻酔が効いていなかったわけではありません。

「回旋異常により物理的な圧迫が強くなりすぎて、痛みの信号が麻酔のブロックを突き抜けてしまった」というのが正解です。

対応として超強力な鎮痛薬を投与した結果、ある程度まで痛みは和らげることはできました。(本人曰く10点中5点くらい)

 

しかし、この「痛み」こそが、お産が正常に進んでいないことを知らせる重要なサインでもありました。

もし完全に痛みをゼロにしすぎていたら、異常に気づくのが遅れ、赤ちゃんや子宮にさらに大きな負担がかかっていたかもしれません。


終わりに

翌日、病室を訪ねると、彼女は清々しい表情で赤ちゃんを抱いていました。

 

妊婦さん:「あの時の痛みは本当に怖かったですが、先生たちがすぐに薬を変えてくれたり、状況を説明してくれたので、最後は納得して手術に臨めました。無痛分娩のチューブがあったから、手術の時も痛くなくて良かったです。」

 

無痛分娩は、ただ痛みを消すだけが目的ではありません。

今回のように、予期せぬトラブルが起きた際に、お母さんのパニックを防ぎ、スムーズに次の医療処置(帝王切開など)へ移行するための「安全装置」としての側面も持っています。

お産は千差万別。

どんな状況になっても、私たち医療スタッフは全力であなたの痛みをコントロールし、安全な出産をサポートします。

 

ではでは!

 

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